外国から輸入された商品が、日本の店頭に並ぶまでには、さまざまな過程があります。
私が今の職業について、最もよく知っているのは、「チェコ製のガラス製品が、日本のどこかの企業に輸入されるまで」です。つまり、貿易業務一般です。
これから就職活動をされる方、転職を考えている方々に、何かの参考になればと思い、書いてみます。
「貿易」って、なんですかね?
そう聞かれたら、私はひたすら「文化の違いを埋めること」と答えます。
仕事は英語でします。
私は多少チェコ語もできますが、日常の通信、特に契約内容に関わる重要な点は、絶対英語で話します。それを日本のお客様に伝える時には、当然日本語。
本社から誰かが来日したり、日本の取引先とチェコへ行く時には、通訳にもなります。交渉が難しい内容の時、互いの腹の探り合いである時、間をつなぐ者の責任は重大です。言葉1つの置き換え方で、交渉の行方を左右することもあります。
これは「日常英会話できます」というレベルでは、全く通用しません。なぜでしょう??
貿易最前線で求められるのは、双方の言ってることを正確に訳すことではなく、
「双方の利害を理解し、代表し、交渉事を決着させること」だからです。ここに通訳する人の手腕が発揮されるわけですが、双方の考え方が真逆な場合、無能な通訳は延々と同じことを翻訳し続け、有能な通訳はその交渉のイニシアチブを取り、限られた時間で、双方がなんとか納得するところまで、話をもっていきます。
その時どちらかに肩入れした姿勢を見せると、身方されなかったと感じた方は、態度を硬化させますから、それもダメ。できる限り感情的にならず、(結果として、どちらかに有利な結論になることが見えていたとしても、そこに至るまでの過程を)あくまでも公平に導いていく。簡単じゃありませんよ。でもそこを目指して、日々がんばってます。
典型的な例。
いくつかの取引先に、大胆な新提案をした。チェコ人は、誰がこのプロジェクトの真のパートナーになり得るのか、知りたくて来日。そして大抵こういう時、日本のすべての会社は「検討しましょう」と答える。
かなり乗り気でも、日本人はすぐにその場で安請け合いしない。ワンクッションおいて、しばらくしてから「正式な返事」が来たりする。この時差が、チェコ人にはわかりません。
逆に、全くやる気がなくても、面と向かって「やりません」とは言わず、ひとまずやんわりと「検討します」と答える。この気遣いも、チェコ人にはわかりません。
こうした言葉のニュアンスは、日本人なら幼い頃から「空気を読む」練習をさせられてるので、大体わかります。私はその上に、重要な交渉事ならば、事前に各社の事情を下調べします。長年のやりとりで認識している各社内の雰囲気、交渉の窓口の方の性格も加味。あらゆる情報を頭の中に入れておいた上で、各社の「検討します」を、
ー「この提案を受ける気でいます。正式回答は後日来るでしょう。」
ー「迷ってます。この担当者レベルでは判断がつかないのかも。もっと上の人と直接話してみるべきです。」
ー「全く受ける気はなし。日本人特有の表現方法で、直接断るのを避け、後日断ってくるでしょう。候補から完全に外して下さい。」
ー「自社で受ける気はないが、やるかもしれない姿勢を見せておいて、日本の他社がどう反応するか見ようとしてます。こちらもこの場は、適当に受け流せばよいでしょう。」
・・のように訳します。
これを全部「前向きに考えると言ってます」と訳したところで、チェコ人は混乱するだけで、来日した意味もなくなってしまう。
貿易とは、一事が万事、これにつきます。
言葉1つに含まれる意味が違う。だから「A」という単語を、別の言語の「Aにあたるもの」に置き換えるだけでは、商談は進まない。交渉はまとまらない。
私達の事務所の本社がチェコにあるからといって、「チェコ語ができます」レベルで仕事ができるかと言えば、全く違うのです。
就職活動をしている皆さん、ここがポイントですよ!!語学ができる位で、貿易交渉ができると思ったら、あっまーい
反対に、そういう交渉こそおもしろいじゃないか!!と感じる人は、語学なんてできなくても、貿易会社に入るべし。場数を踏んでるうちに、そしてやる気があれば、言葉なんてすぐできるようになる。一般的に、気概のある子は周囲にも育てられるから、語学の習得が早いんです。
本日はここまで。 つづく