今日は、前回ご紹介したのとは、全く反対の典型的な例を。
世界に冠たる「曖昧な日本人(表面上の言葉では本音がわかりづらい、ということ)」と、それに匹敵する「時間を見積もる才能が皆無なチェコ人」の話。
日本の市場の動きは、恐らく世界一せっかちでしょう。次々と新製品が出て、トレンドはめまぐるしく変わる。一方でチェコは、今だに数百年前と同じシステムなんじゃない?ってことが、日常生活のそこここに・・・。時間の流れ方が、完全に違うというか。
日本の会社から注文が入ると、一番大事なのは「納期」です。
日本人なら、一端約束した納期は死守しますわね。何日寝なくても、どんなに赤字になっても、自社の「信用」を傷つけないためにやりきります。こんな勤勉な日本人ですから、チェコ人の「やります」という言葉も、そのまま信用してしまいます。これがタイヘンな事態を生むので、(そして日本のお客様を甚大な被害から守るためにも)私は頭の中の過去のデータを総動員し、チェコ側の「納期は3ヶ月です」という言葉を、以下のようにバリエーション豊かに訳します。
ー本社は3ヶ月と言ってますが、危ないです。不足の事態が起きたら、1月は軽く延びますから、御社のお客様には「4ヶ月以上」と答えて下さい。
ーこの工場には今仕事がない。職人は暇ですから、早ければ2ヶ月であがります。早めに送金の準備をしておいて下さい。
ーこの商品、前にトラブルが起きた時には納期は8ヶ月でした。本社の「3ヶ月」というコメントは無視して下さい。絶対にあてにしないで下さい。実際には半年以内に来たら、いい方です。
ー3ヶ月の納期を守らせるために、2週間おきに製造状況を確認するメールを、本社へ送って頂けますか?私達もしますが、お客様から直接のメールが届くことも、威力がありますので。なぜそうしろって?チェコ人は、自分で3ヶ月だと約束したことなんか、覚えてないからです!
こうした意訳(?)は、注文される商品や工場、製造現場の状況により、実に様々です。ですが、まず時間が守られてくる、ということの方がまれです。(それでも私が入社した頃に比べれば、随分早くなったと思います。昔は、よくお客様に、「天災とチェコの商品は、忘れた頃にやって来る」と言われましたです、ハイ
。)
まじめな日本人が聞けば、耳を疑うような話です。
「正気か!?」
「人を騙してるのか、チェコ人はわざと嘘をついているということか!!」
こう怒鳴られたことも、何度もあります。
違うんです。彼らは誰も、悪意を持って「嘘をついている」わけじゃないのです。その時は、本当にできると思って答えてるんです。ここがやっかいなところです。
私も、個人的には、人を待たせたり、約束した日時を遅らせるのは好きじゃありません。大切な話になるほど、嘘つきにならぬよう、時間の見積もりを綿密にします。しかしチェコでの製造時間に関しては、私でも読めぬ局面がたくさんあります。ありすぎます。
何年も、何年も、こうした交渉を繰り返すうちに、1つの結論に達しました。
チェコ人に、時間を見積もる才能はない。ゼロ。
注文を受けた時に、いくら彼らが本気で考えても、実際に起こり得る全てのことを加味し、より正確な時間を割り出すなど、何度生まれ変わっても無理でしょう。できないものを、どんなにやれやれ!と言っても、パソコン使えない人に「うち用のソフトを開発しろ!」と言ってるようなもんです。この悟りの境地に、私の場合は毎日チェコ人と向き合う中で、比較的早く到達しました。
しかし、日本の全てのお客様に、等しくこの境地へ達して頂けるかと言えば、決してそうではない。わたしゃ教祖様でもないので、独自に辿り着いた、この
「むかつかない境地への解脱方法」を、解く術もない。お客様なりに、これまた独自の方法で悟りを開いていらっしゃる場合、話はしやすい。
だが、「あくまでも約束は約束だ。何がなんでも守れ、守れったら守れーーー
」と何十年も、ひたいに血管を浮き上がらせっぱなしの方もいらっしゃる。こういう人には、どうやって納得して頂いたらよいのだろう???
1.チェコとの取引をやめる。(やめられるもんなら、とっくにやめてるよなー。やめられない事情がなんらかあるから、こんなに怒りながら続けてるんでしょ。)
2.事態は変わらないが、とにかくその人の溜飲が下がるまで謝り続ける。(これは恒常的な解決になっていない。とにかくその場を少しでもおさめるための暫定的な方法。)
3.なんらかの魔法を使って、日本とは違う文化・習慣で動いている国や民族の存在を、その方の心の中で認めて頂く。(これをしたいが、どうやって奇跡を起こしたらいいか、誰か教えてください・・・。)
こんなことを考えながら、今日もチェコ人の言う「納期3ヶ月」を、少しでも日本のお客様に迷惑がかからず、納得して頂ける言葉に置き換える私です。通訳なんて越えてます。英語で言えば、"Fixer"−「もみ消し屋」じゃなくて、「特別な領域の交渉人」と訳したいデスネ。
Well, I'm a fixer between Czech and Japan------.